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アートの「お値段」と、アートを買うことの意味

image01.png 出典:Sotheby’s公式ホームページより / https://www.sothebys.com/

 

アート市場の最高峰「オークション」

 

この原稿を書いているまさにそのタイミングで、ロンドンのオークションで、バンクシーの作品が約29億円で落札されたことがニュースで報じられました。

「愛はゴミ箱の中に」というこの作品、2018年に行われたオークションで、落札直後に額縁に隠されたシュレッダーで細断され、話題となったあの作品です(当初は「少女と風船」という作品名でした)。当時の落札金額は約1億5000万円だったので、その金額は3年でおよそ19倍に膨れ上がった、ということになります。

日本人現代アーティストの代表格である草間彌生、村上隆、奈良美智。アートに詳しくない人でも一度は見たことがあるであろう彼らの作品もまた、オークションにかかれば1億を超える、世界的な人気作家です。オークションはまさに、アート市場の最高峰。私たち庶民からすると想像もつかない額のお金が動く「雲の上の世界」です。
 

image02.jpg ※出典:『アートのお値段』公式ホームページ / http://artonedan.com/

 

現代アート市場の舞台裏

 

そもそも、アート作品の値段とは、だれが、どうやって決めるのでしょう?
その疑問のヒントが見つかるかもしれないという期待を持って、2018年のドキュメンタリー映画『アートのお値段』を観てみました。


白熱したオークションの様子からスタートするこの映画で描かれるのは、まさに「雲の上の世界」。巧みな戦略で買い手にアプローチするオークショニア(競売人)の生々しい言葉や、狂気すら感じてしまうコレクターの心理、市場評価で栄枯盛衰が分かれるアーティストたちの創作に対する思い、などなど。
現代アートとお金について、関係者が語りまくる本音から、華やかでダークな現代アート市場の裏舞台を垣間見ることができます。


オークションでは、コレクターの需要や作品の希少性(例えばバスキアなど、亡くなっている作家なら、作品数に限りがあるため高値がつきやすい)、さらに美的な価値を考慮して、競売開始価格が決められます。そしてその作品を「誰がいくらで買うか」で最終的な作品の価格が決まります。そこにはそれぞれの思惑が交差しており、「価格」=「作品の価値」といえるほど単純ではありません。そこがアートのお値段のわからなさであり、難しさなのではないでしょうか。

 

 

アーティストにとっての作品とお金

 

映画の中には数々の著名アーティストも登場し、見応えがあります。そして十人十色の考え方も楽しみどころです。

50億円以上で作品が取引され、“世界一成功しているアーティスト”と呼ばれるジェフ・クーンズ(最近ではユニクロとコラボしていましたね)は、大勢のアシスタントに指示をして作品を量産中。それでも「自分が作った作品と言い切れる」と断言します。アート市場から長く忘れ去られていたというラリー・プーンズは、田舎のアトリエでキャンバスに向かいます。「自分の可能性のために作品を作っている。アーティストの評価を値段で決めるのはナチュラルじゃない」と言う彼はとても自由に見えました。ジョージ・コンドは、「マーケットと芸術作品の創造とは切り離された別の存在」と割り切り、マリリン・ミンターは「作品が売れるのは嬉しい。でも注目を集めるのは不安だし怖い」と語ります。「お金は作品を作るモチベーションにはならない」と言い切ったナイジェリア出身のシデカ・アクーニーリ・クロスビーは、「作品を作るスピードを上げれば、その作品を豊かにする“背景”が消し去られてしまう」と、量産に否定的です。

 

特に印象的に描かれていたのが、作品が美術館に展示されることについての意見の対比でした。

現代美術界の巨匠と呼ばれるゲルハルト・リヒターが「作品は美術館で展示される方がいい。貧富の差に関係なく見る機会があるからフェアだ」と語ったのに対して、オークショニア(競売人)は「美術館なんてアートの墓場。所蔵品が多ければ地下倉庫で眠るだけ」と一蹴。

 

アート市場の波に乗って富を得る者、流されまいとする者、市場の雑音から距離を置く者。立場によって意見もさまざまでした。

 

とはいえ、作品が売れれば、アーティストの活動資金が増えることは間違いありません。アーティストの生き残りのためにも、作品が売れることは必要なこと。作中でも美術評論家が「ほとんどのアーティストはお金がなく、生活に苦しんでいる」と話していました。問題は、芸術が単なる“商品”となり、異常なほどの熱狂が創作活動に影響を及ぼすことなのかもしれません。

 

image03.jpg●ジェフ・クーンズ『Balloon Dog』 / http://www.jeffkoons.com/artwork/celebration/balloon-dog-0

 

image04.jpg●マリリン・ミンター『ALL WET』 / https://salon94.com/artists/marilyn-minter

 

 

 

アートを買うことは「共犯者」になること

 

現実に戻って、私たちがアート作品を買おうとするときのことを考えてみましょう。
私たちにとって作品を買うことは、財布の中身と相談し、所有する喜びを噛み締める個人的な行為です。ですがそれは、アーティスト側から見ると、「承認」であり「応援」、さらには「未来への投資」であると考えることもできます。

 

現代アートが高値で取引されるようになったきっかけは、タクシー会社のオーナーだったロバート・スカルが、1973年に行った「スカル・オークション」だと言われています。映画の中では、スカルが「所有は関与。購入することで関与する。芸術に関与するのは刺激的だ」と述べたインタビュー映像が流れます。

 

アーティストの表現に惚れ込み、購入し、アートを生活の一部として楽しむことは、いうなれば自分の人生とアーティストの人生が交わり、関わるということ。自分が欲しくてお金を払ったことが、それを生み出してくれたアーティストの力になれると考えると、なんだかうれしさがアップします。そう、私たちはアートを買うことで、次なる表現の共犯者になれるのです。


 

記事公開:2021年10月29日

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